【ボッチャ連載企画第3弾】ボッチャ選手団、その団結力の要。選手を支えるスタッフ3名の方にお話を伺いました
国際大会での活躍が目覚ましく、夏大会でのさらなる飛躍にも注目が集まるボッチャ代表チーム。
ミリ単位のボールコントロールが勝敗を左右するトッププロ競技の世界の中で結果を出し続けるには、選手個々の強さのみならず、選手“団”としての強さが伴ってのことでした。
日本ボッチャ協会(一般社団法人 日本ボッチャ協会)との共同連載企画第3弾となる今回、そんな選手達の心身のコンディションを支え伴走するコーチ・トレーナー陣の中核を担う3名のスタッフの方に、お話を伺いました。
(2024.4.26取材)
写真左より、古尾谷氏・内藤氏・栄徳氏
古尾谷 香苗(ふるおや・かなえ)
日本ボッチャ協会専任トレーナー
理学療法士
理学療法士として療育センターに務める中で、親子揃って楽しめるレクリエーションスポーツとしてボッチャに出会う。
その後ボッチャ国内大会のボランティアスタッフとして関わり、競技ボッチャに出会い、ミリ単位を競う奥深さや、トップ選手達のサポートに興味を持つ。
ロンドン大会の後、日本ボッチャ協会内でコンディショニング部が発足した際、メンバーに加わり、ボッチャ協会専任トレーナーとして従事。
内藤 由美子(ないとう・ゆみこ)
強化指導部 強化スタッフ
専任パーソナルコーチ(BC2 杉村英孝選手)
Team BC1/2 チームコーチ
作業療法士
作業療法士として施設利用者をスポーツ大会に連れていく中でボッチャに出会い、施設利用者の方が大会に真剣にのめり込む様子を見て、ボッチャの世界に惹き込まれていく。
現在ではボッチャコーチ陣の中核を担い、他スタッフを牽引する存在に。
栄徳 美沙季(えいとく・みさき)
トレーナー兼コーチ
理学療法士
元々興味を持っていた障がい者スポーツへのボランティア活動に参加する中でボッチャに出会い、リオ大会後から強化スタッフとして参加。
現在は訪問看護ステーションで理学療法士として従事する傍ら、ボッチャ選手団ではトレーナー兼コーチとして活躍。
「毎月の強化合宿、海外遠征。24時間共にするコミュニケーションが、競技に反映される」
― 本日はよろしくお願いします。早速ですが、実際にどのような形で選手と関わっていられるかについて伺えたらと思います。
内藤:指導者として先導する、というよりも、選手と並走する様に心がけています。
ボッチャは他の競技に比べて重めの知的障がいを持ち合わせている選手もいて、言葉がうまく伝わりにくかったり、私自身も理解が及ばなかったり。
そうした場面がかなり多くなるので、出来るだけ沢山の時間を選手と一緒に過ごすことで、選手が何を感じて、それをどのように表現するのだろう、というところを考えながら関係性を一緒に作り上げていく、という関わり方を大切にしています。
スポーツ一般で言うところの選手とコーチの間柄とは少し違う形になっているかもしれません。
古尾谷:月に1回強化合宿もありますし、大会遠征になると、10日間から2週間ぐらい、選手達と帯同することになります。
内藤さんの話でもありましたが、ボッチャはパラスポーツの中でも特に、重い障がいを持たれている選手が多いので、私達の仕事は生活介助の割合が一番多くなっているのかなと思います。
食事やお風呂など全部、24時間一緒になる、ということなんですけれども、その生活介助の中のコミュニケーションを大事にしています。
選手とスタッフの、そこでの距離感が物凄く近くて、その中でしっかりとコミュニケーションを取っていくと、結果として競技にも反映されているなと感じています。
―練習や競技の外のコミュニケーションがむしろ大きくて、文字通り並走されているのだなというのが伺えますね。
栄徳さんはトレーナー兼コーチという形でまた特殊な関わり方をされているのでしょうか。
栄徳:トレーナーとコーチ、それぞれ役割は違うのですが、ボッチャという競技の性質の上では一緒になるというか、切って切り離せないところもありますね。
古尾谷:私はトレーナーが主なのですが、栄徳さんはトレーナー陣とコーチ陣の間を繋ぐような、連携を促す役割を果たしてくれていて助かっています。
トレーナーはクールダウンの時間や練習、試合の後その日の振り返り等の際に、選手の体に触れながらという距離感で関わることも多く、選手から比較的心も開いてくれやすいというのはあると思います。
選手達がこう何気なく、ポロポロって話してくれることがすごく多いんですね。
そこをコーチ陣とも共有して連携しながら、チームでサポートしていくというのを大切にしています。
栄徳さんの様な人もいてくれるので、良いバランスのスタッフ達の中で活動出来ているなと実感しています。
栄徳:試合に勝ち続けている時はまだ良いのですが、負けた時の気持ちの切り替えだったり、上手くパフォーマンスが上がらないなという時だったり、選手がどうしてもコーチに相談しづらい様な場面もあるんですね。
トレーナーと話をしながら、ボソボソと考えていることが出てきて、こんなことを悩んでいましたよ、とコーチに共有することは、実際に合宿や遠征の中で結構あったりします。
内藤:そうですね。普段なら五メートルぐらいボールが投げられる選手でも、急に距離が届かなくなったりすることがあるんですね。
それでこう、体調について尋ねても、選手本人は「変わりないよ」って直接は言ってくれたりするんですけれども、その変化が実際、身体の変化から来ていることなのか、気持ち的に落ち込んで届かなくなっているのか。
そういうところの見極めなども必要になってくるので、トレーナーの人達から、選手にこう聞いたというのを、身体の様子と合わせて話を聞けている今のサポート体制はありがたいと思います。
「遠征先のイレギュラーを乗り越えて、心を一つに」
―選手とスタッフの間でも、スタッフの皆さんの間でも、本当に緊密にコミュニケーションされているのですね。
そのように選手と関わり支えている中で一つ、印象に残っているエピソードを選ぶとすれば、どんなエピソードがありますか。
古尾谷:具体的に一つのエピソードという話ではないのですが、海外遠征に行くと大体、大きなハプニングがつきもので。
荷物のロストだったり、車椅子機器のトラブルが起きたり。
生活環境面も国によって違うので、本当に色々なことが出てきます。
体力的にもハードな状況で追い込まれた環境でイレギュラーなことが起こる中でこそ、選手もスタッフも一つにまとまって、そこを乗り越えた時に、結果もついてきたりしているんですよね。
ある意味で、イレギュラーを楽しみながら乗り越えていく経験を選手もスタッフも積んできているので、何が起こってもボッチャを楽しめるベースがあるというところが、印象的な話です。
内藤:印象に残っているエピソードは、PROTEXさんのボールケースにも関わる話が二つあります。
一つは2024年大会の出場権をかけた大会(2023年12月)で、決勝戦に進んだ女性選手のボールをケースごと、大会会場に持って行くのを忘れてしまったというアクシデントがあって。
幸いにも、栄徳さんや、滞在先のホテルに残っていたスタッフ達で連携してすぐにボールは届けることは出来て、試合には無事に間に合ったっていう。
古尾谷:でもそのイレギュラーをチームで助け合って乗り越えてメダルも取っているので、あれもまた必然的だったのかなとも思います(笑)
ボールケースもあの目立つオレンジ色だったので、どこに置いてあって、誰のもので、というのは直ぐに分かる様になっていて、それも良かったですね。
リオ大会向けに提供したボールケース
内藤:もう一つのエピソードは、同じ大会のチーム戦になるのですが、おおよそ3位以上の順位を取らなければ来年大会の出場権を取れないだろうという状況の中での準決勝の試合、大差で負けてしまったんです。
選手の表情も暗くなって、スタッフ達もどうしようかと悩んでいて、私自身もすごく焦って。
もしかするとボッチャ人生で私、試合に臨むのはこれが最後になるかもしれない、と考えるぐらいに思い詰めていました。
そこで自分の困っている事、胸の内を、今ここにいるスタッフも含めて皆にこう、ちょっと涙ながらに打ち明けさせてもらって、その時にスタッフ達がすごく温かく迎えてくれたんですね。
それから選手同士も、自分たちが今、何に向かってどうしていかなければいけないかというところを話し合ったり、スタッフと選手の間でもそうした会話をすることが出来て。
試合の際、私はコーチとして選手と一緒にコートに入るスタッフで、いつもPROTEXさんのボールケースを持って入るのですが、気持ちは一つ、という形で皆が送り出してくれたこの時のボールケースが、本当に重く感じたのを覚えています。
プレッシャーなのか、皆の思いなのか、本当にその時のボールケース重かったなって。
そこで無事に銅メダルを取って、2024年大会の出場権を無事に獲得できたという結果に繋がっています。
栄徳:東京大会の時、BC1/2、BC3の選手達もメダルを取っている中で、特にBC4の選手が入賞したのが嬉しくて、それが私の印象的なエピソードです。
2024年大会にはBC4の選手は今のところ、団体戦の出場はないのですが、BC1/2、BC3の選手達の活躍が良い刺激になればとも思います。
内藤さんの話でもあった様に、気持ちは一つで、試合に出られない選手達も団結してくれているので。